世界と歴史のスタンダード

世界と歴史の流れ:
「自分の根っこ」を奪われた子どもたちの闘い

「生殖医療で生まれたから、ドナーを気にする」——実は、この権利が世界で生まれたきっかけは、医療の問題ではありませんでした。本来の「出自を知る権利」の歴史は、もっと広く、深い「子どもの人間の尊厳」を守るための歴史です。その背景にある、3つの歴史的真実を紹介します。

1. 始まりは医療ではなく「養子縁組」の秘密主義(1970年代〜)

大昔のヨーロッパやアメリカでも、「生みの親の情報は完全に隠し、育ての親だけを本当の親とする」という秘密主義が当たり前でした。大人の都合で、過去の記録はすべて消されていたのです。

しかし、大人になった養子たちが声を上げ始めました。「自分がどこの国の、誰から生まれたのかわからない。自分の根っこ(アイデンティティ)がグラグラして、自分が何者なのか自信が持てない」

この強い訴えを受け、イギリスは1975年に法律を改正。18歳になった養子が、自分の本当の出生証明書を確認する権利を世界で初めて認めました。

2. 国家にルーツを消された「盗まれた世代」(オーストラリアの悲劇)

オーストラリアでは1910年代〜1970年代にかけて、国策によって先住民の子どもたちを家族から強制的に引き離し、白人家庭や施設で育てるという悲劇が行われました。彼らは「盗まれた世代(Stolen Generations)」と呼ばれています。本当の名前も、家族も、民族としてのルーツも、すべて国によって抹消されたのです。

この猛省から、オーストラリアや欧州では、「大人の事情(国策や戦争)によって子どものルーツを奪うことは、絶対にあってはならない重大な人権侵害である」という強い共通認識が定着しました。

3. 「戦争難民や移民の子ども」を救うための国連条約(1989年)

こうした歴史の反省(戦争による家族の離散、国境を渡った難民・移民)が集約され、1989年に採択されたのが国連の「子どもの権利条約」です。

紛争で国を追われた難民の子どもたちが、「自分が何者であるか(国籍や家族関係)」を勝手に書き換えられたり、消されたりしないよう、国際法で強く守る仕組み(第8条:アイデンティティの保持)が作られました。

⚠ 衝撃的な先例

オーストラリア(ビクトリア州)で、
過去の約束が覆された例。

このように、世界では「子どものルーツを知る権利は、人間の生存に関わる基本的人権である」という意識が圧倒的に強くなりました。その結果、ドナー医療の世界でも「過去の約束」が覆る事件が起きます。

オーストラリアのビクトリア州では2017年、法律ができる1998年よりも前に「完全匿名」を条件に精子・卵子を提供した過去のドナーに対しても、生まれた子どもが希望すれば、本人の同意なしに実名や連絡先を開示することを義務付ける法改正が行われました。

当時、ドナーたちは「あなたの名前は絶対に秘密にします」と病院から約束されていました。しかし、時代の変化とともに「子どもの人権(ルーツを知る権利)」が最優先され、国家の判断によって過去の約束が覆されたのです。

Conclusion

結び:ドナーになるということ

「出自を知る権利」は、一部の医療のルールではなく、世界が何十年もかけて作ってきた「人間としての尊厳」のルールです。

だからこそ、「今が匿名だから安心」とは言い切れません。将来、日本でも世界の基準に合わせて、過去の提供にまで遡ってあなたの情報が必要とされる可能性はゼロではないのです。

私たちは、この現実を誠実にお伝えした上で、みなさまにドナーとしての第一歩を検討していただきたいと考えています。

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